2016年1月22日

もっと肺炎怖い その3

22歳男性、低血圧とショックで入院。
最後の経過です。

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITAL. Case 39-2015. A 22-Year-Old Man with Hypoxemia and Shock.
N Engl J Med. 2015 Dec 17;373(25):2456-66.
Shenoy ES, Lai PS, Shepard JA, Kradin RL.

2016年1月6日

その3

その2からつづき

かわうそ:さて、この後の経過ですが、PCRを出したらインフルエンザA型と診断が付きました。
治療としては引き続き、VCM、CFPM、LVFX、オセルタミビルです。ラピアクタじゃないんですね。
ただ、経過よくなくて、右足の色が悪くなってきます。

かば:血栓ができましたか。

かわうそ:残念ながら、血管攣縮とのことです。血栓ならまだ抗凝固したりして、やりようがあったんですけどね。
入院3日目に血液培養からMSSAが検出されています。
さらに右気胸もできています。そして引き続き左側も気胸になります。

かば:なんと~。

かわうそ:ちなみに、この時の人工呼吸器設定が、すごいんですよ。

かば:ボリュームコントロールの設定なんですね。

かわうそ:でも、2ml/kgなんですよ?

かば:えっ?少なくない?

かわうそ:この人、180cm、70kgくらいですので、だいたい1回換気量は150mlくらいってことですよ?
それでも気道内圧のピークが30cmH2Oっていうことは、どう考えてももう限界ですよ?気胸にもなりますね…。

かば:うーん。

かわうそ:まだまだ状態よくなくて、アシドーシスになってショックになって、という経過をたどります。
ここでやったのが、Exploratory laparotomyというわけで、お腹を調べています。

かば:開腹ですか…。

かわうそ:でも何も異常がなくて、消化管の虚血とかではないというわけです。
なら右足の壊死なのか、ということで、アンプタしています。

かば:…。

かわうそ:ただ、状態がよくないということで、入院16日目に亡くなって、剖検に回ります。

かば:これはきついですね…。

かわうそ:剖検の結果、肺の重さは2000gでした。たしか正常が500gくらいだったと思うので相当重いですね。

かば:切断面はみるからにwetですね。肺に見えません。実質臓器化ですね。

かわうそ:肉眼的所見としては出血、壊死が認められます。
さらに、顕微鏡的には器質化肺炎様だったり、出血性壊死、膿瘍形成などが認められます。Aの写真です。
さらに、小気道が扁平上皮化生していることがわかるようです。あんまりよくわからないのですが、これがどうやらインフルエンザ感染の所見だということです。Bの矢印のところです。
Cが好中球が集まっているので、膿瘍の部分です。
DはMSSAを免疫染色した写真です。MSSA感染を示唆するところです。
Eは出血性梗塞を起こしているところの写真らしいです。
Fは多核の両染性細胞があって、これはヘルペスウイルス感染を示唆する所見です。Gで免疫染色していますが、単純ヘルペスウイルスでした。

というわけで、インフルエンザ、MSSA、ヘルペスウイルスの3重の感染ということがわかりました。

かば:ヘルペスによる肺炎も起こしていたってこと?

かわうそ:ということなんでしょうね。けっこう感染細胞も多いようですし。

この肺の組織をCDCに送ってPCRアッセイなどもやっています。その結果、インフルエンザA、H3N2ということが判明します。
ただ、活動性のあるものではないのではないか、とのことです。けっこう発症から時間たっていますしね。
また、単純ヘルペスウイルスもtype 2ということがわかりました。 

インフルエンザ肺炎に、黄色ブドウ球菌の肺炎がかぶることは割とよくあるようですし、発症した際にはdevastationgな経過をたどることがある、と書かれています。
ただ、さらに単純ヘルペスウイルス感染がインフルエンザにかぶることは、易感染性宿主でないかぎり、あんまりないはずなのに、と悔しそうに書いてありますね。

かば:ヘルペスウイルスの治療をしなかったからよくなかったのでしょうか?

かわうそ:関係があるかもしれませんが、結局は、黄色ブドウ球菌による壊滅的な肺炎で敗血症性ショックになっていますので、これが一番致命的だったと思います。

かば:最終診断はインフルエンザなんですね。きっかけがだからでしょうか。

かわうそ:1日の経過でこれほど状態が変わり得るというのが恐ろしいです。