2016年1月19日

もっと肺炎怖い その2

22歳男性、低血圧とショックで入院。
鑑別診断についての部分です。

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITAL. Case 39-2015. A 22-Year-Old Man with Hypoxemia and Shock.
N Engl J Med. 2015 Dec 17;373(25):2456-66.
Shenoy ES, Lai PS, Shepard JA, Kradin RL.

2016年1月6日

その2

その1からつづき

かば:まずは感染症なんですけど、その他に何が上がってくるのかわかりませんね。生来健康な若年男性のこれだけ急な経過ですので。

かわうそ:基本的には感染と考えていいようです。免疫不全があるのかどうかは重要ですけどね。日和見感染なのか、それとも一般的な感染症の重症なものなのか?

かば:白血球が減っているのが実は先で、という可能性も否定できませんね。

かわうそ:まあ、ここではHIVなど、免疫不全はないという前提で話が進みます。
細菌、真菌、ウイルスなどを考えましょうということで、鑑別診断を上げていきます。
こういう激烈な経過をたどる肺炎の場合、考えるべき細菌としては、肺炎球菌と黄色ブドウ球菌です。特に黄色ブドウ球菌はnecrotizing pneumoniaの原因になることで有名です。

かば:そうでしたね。

かわうそ:黄色ブドウ球菌は、普通は軟部組織感染、皮膚感染のある人に要注意なのですが、3割くらいの人は、そういう感染がなくても、コロナイズしていることがあるようです。3%くらいではそれがMRSAであったりするので、けっこう問題みたいですね。
あとは、レジオネラだとか、クラミジア、マイコプラズマなども一応考えるべきです。さすがにLVFXでカバーしていますね。

さらに、uncommonなものも考えようぜってことですけど、先生思いつきます?

かば:…。

かわうそ:炭疽菌、腺ペスト、ツラレミアです。ふふっ。
ただ、炭疽菌と聞くとドキッとしますが、これはけっこう簡単に血液培養で生えてくるので、診断に苦慮することはあまりないとのことです。腺ペストは旅行歴が重要だそうです。流行している地域が報告されていますので。

真菌については、さらっと流しているだけです。基本的にはリスクファクターがないので。一応あげるとしたら、PCPとかです。あとは、この前の肺炎症例で出てきた真菌なんですが、覚えています?旅行歴が重要な疾患です。

かば:ヒストプラズマでしたっけ?コクシジオイデスと。

かわうそ:さすがですね。この前はブラストミセスでしたね。
ウイルス感染についても、あんまりテンションが高くない書きっぷりです。免疫不全のある場合に注意が必要なわけですので。

ただ、インフルエンザって、やっぱり気楽に考えてはいけないですね。アメリカで、年間で20万人の入院があって、2万人くらいは死亡されてます。

さらに、この症例のシーズンは、ワクチンの型の読みが外れたらしくって、重症患者が多かったようです。

かば:2014-2015ってことは、去年ですよね。めちゃめちゃインフルエンザ多かったですね。うちの先生もインフルエンザで倒れましたね。

かわうそ:あ、私は働いていませんでしたので知らないんですね。

インフルエンザ迅速抗原検査が陰性ということも、どこまで信頼できるか、という問題があります。
この症例では、5日目くらいでインフルエンザの検査をしています。
実は、発症3日くらいが最も検査に適した時期らしくて、5日目だとピークを過ぎているので感度が下がるかもしれないとのことです。

かば:あと、手技の問題もありますね。陽性なら陽性といえますが、陰性だからといって必ずしも陰性とは言えないんですね。

かわうそ:この先生方は、そのあたりを踏まえて、ちゃんとオセルタミビル使っているので偉いですね。
PCRを出したり、鼻汁ではなく気管支鏡などで肺の検体をとるべきだ、と書いてあります。

かば:あんまりインフルエンザに特徴的な症状ないですよね。熱もそれほどでもないし、筋肉痛や関節痛の訴えはないですね。

かわうそ:自己申告では40度まで発熱しているようですが、自分で解熱剤を内服しているので病院ではわかりにくかったのかもしれませんね。
あと、腹部症状がメインのインフルエンザかもしれません。

インフルエンザにも色々あります。A型、B型、新型、鳥インフルエンザなどです。でも、あんまりこの人は鳥との接触や旅行歴がないんですよね。

あと、どんなウイルスを考えますか?

かば:パラインフルエンザとかRSウイルスとかですね。

かわうそ:さすがですね。ここには、あとヘルペスウイルスということで、サイトメガロウイルス、単純ヘルペス、水痘帯状疱疹ウイルスです。

いちいちコメントしていくと、まずパラインフルエンザウイルスは冬の病気ではないので除外します。RSウイルスは子供や老人のウイルスですので考えません。ヘルペスウイルスについては、これは免疫抑制状態の人の病気なので、と書いてあります。
でも、われわれが原因不明の肺炎で悩んだ場合、この辺りの検査をするべきだなあ、と思うと勉強になりますね。

まとめとしては、インフルエンザ感染に細菌感染が合併して重症化したのだろう、と考えています。
追加で検査するとすれば、下気道から検体をとってPCRにかけてインフルエンザの診断をつけたらどうか、と提案されています。でも、いまさらインフルエンザの診断をつけても、すでに治療は始まっているわけだし、なんだかな、って個人的には思いますけど。

その3につづく