2015年11月7日

2万5千年の荒野? その3

急性期の被爆問題についてです。

Health effects of radiation and other health problems in the aftermath of nuclear accidents, with an emphasis on Fukushima.
Lancet. 2015 Aug 1;386(9992):479-88.
Hasegawa A, Tanigawa K, Ohtsuru A, Yabe H, Maeda M, Shigemura J, Ohira T, Tominaga T, Akashi M, Hirohashi N, Ishikawa T, Kamiya K, Shibuya K, Yamashita S, Chhem RK.

2015年10月21日

その3

その2からつづく

この次の項では、原子炉爆発時の日本の対応についてあります。日本政府が、2011/3/11から3/13にかけて、原発から半径3km、10km、20kmと段階的に避難させています。ただし、原子炉が水素爆発したのは、3/12と3/14ですけどね…。

 次が従業員の被爆についてです。対応が良かったので、放射線障害による被爆者は0と誇らしげに書いてあります。Table2が、東京電力の技術者と下請けの被曝量の違いです。東京電力の技術者の方が、数は少ないけど被曝量が多い人の割合が大きく、危険な仕事に従事しているということを示したいようです。あと、急性の障害がでるほどの大量の放射線被曝はなかったことも強調されています。

地域住民の被曝については、急性期とそれ以降に分けられています。
急性期については、まずは推定の値が書いてあります。2011年の3月から6月までのexternal effective dosesはほとんどで2mSv以下、平均で0.8mSvとのことです。事故直後に最大25mSvという推測があります。ちなみに、放射線ヨードが体内に入る経路としては、食品の流通制限がかなり厳しかったので、経口摂取はほとんどなく、吸入がメインとのことです。それでも、生後1ヶ月の乳幼児で最大80mSvの甲状腺への影響があるかもと予測されています。
限られた症例で直接測定が行われていまして、それも書いてあります。30kmゾーンの62人の避難者で甲状腺のモニターをしたところ、大人では最大33mSv、平均3.6mSvで、子どもでは最大23mSv、平均4.2mSvでした。ホールボディーカウンターでも測定しており、こちらは20-30kmの屋内にいた人62人です。甲状腺への実効線量は最大18.5mSv、平均で0.67mSvです。
予測と実際に測定されたものを比較して、それほど乖離していないという理解でいいのでしょうか。
あと、これはさすがに原発から遠い人たちが対象ですね。そして、これが重要なのですが、この被曝量が多いのか少ないのか、少なくともこの文献を読むだけではわからないというのが問題なんです。準備不足ですみません。

そして、ここはちょっとおもしろいなと思うんですけど、WHOから、特に福島の汚染の強い地域では女の子で甲状腺癌のリスクがわずかだが上がるという警告がだされているんですが、それに対してかなりキツくこの筆者が反論してるんですよ。
…、まあ聞いて下さい。まず、この予測は、放射能汚染を過大評価している報告に基づいているのでちょっと差し引く必要があるというわけです。そうなのかもしれません。次に、たしかに放射線から防御するためにはヨード剤を飲むのが唯一の方法であると。そこは認めています。実際、飲むかどうか混乱と遅れが生じていたと。だがしかし、予測上の甲状腺被曝はヨード内服の必要のないくらいだったし、日本人はもともと海藻の摂取量が多いので、やっぱり必要はない。だから心配する必要はないと。
にもかかわらず、無知のため心配する人が多いので、批判があるのは十分承知していますが、甲状腺エコーでスクリーニングしています。
 …、たしかに曲解してる部分があるのかもしれませんが、何かそういうニュアンスを感じたんですよね。
ただ、福島医大の関係者がヨード剤内服が必要ないと言うのは、違うと思います。というのもですね、ご存知でしょうか?彼らは自分たちと家族にはヨード剤を配っていたという話を。
これは、私が実際に学会で福島医大の先生に質問して聞いたことですので事実だと思います。あんまり話題にはなっていませんけど。たしか、福島医大は、ヨード内服についての判断や助言をするような役割ではないということらしいです。だから、自分たちの責任で、自分たち用に備蓄していたヨード剤を関係者に配布したということのようです。まあ、それはそれでなるほどと納得できますけど。ただ、不必要な人に配布してもし副作用が出た場合のことを考えると一般の人へのヨード配布は難しいのではないか、という話もありました。でも、NEJMにのってた総説では、ポーランドでチェルノブイリの時に1千万人にヨード投与を行って特に副作用はなかったと報告されているようなんですけどね。私は、うかつにもこういう情報を知らずに質問しているので、ふみこんだ切り返しとかできずにいました。けど、今なら聞いていますよね、「でもNEJMにはヨード内服による副作用はなかったといわれていますど。いったい何の副作用を危惧して内服させなかったんですか?」とか。
私としては、こんなところで日本独自のエビデンスを作り出そうとこだわりをみせるようなことはしてほしくないんですよね。
もちろん、福島の住民と原発事故と全く関係ない遠くの地域の住民での、甲状腺スクリーニングの比較は必要でしょうけど、内服のありなしで甲状腺癌に変わりがあるのかってことを、せっかく比較対照があるんだから、是非報告が聞きたいです。でも、これもその学会で聞いたんですけど、どうやら研究に制限がかけられているといううわさもあるんですよね…。うわさであって欲しいですけど。

その4へつづく