2015年11月27日

肺炎こわい その2

MGHの症例検討です。鑑別診断を挙げるところまでです。

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITAL.
Case 32-2015.
A 57-Year-Old Man with Severe Pneumonia and Hypoxemic Respiratory Failure.
N Engl J Med. 2015 Oct 15;373(16):1554-64.
Mansour MK, Ackman JB, Branda JA, Kradin RL.

2015年10月28日

その2

その1からつづき

かば:左の肺炎から始まったARDSですね。基準は満たしていると思います。
起炎菌はぱっとでてきませんけど。外来でたくさん薬入っていますからわからないかもしれないですね。

かわうそ:まず、免疫不全は考えなくてもよいという前提で話をすすめてもらってかまいません。
これだけ抗生剤を使って効果がないので、一般的な市中肺炎は除外できるでしょう。
ということで、この患者さんの趣味であるところの、渓谷歩きに的を絞って起炎菌を考えていきましょう。つまり、風土病を考えようということです。

まず、New Englandでは、tularemiaとかhantavirusなどを考えるようです。
tularemiaは、虫刺されだけでなく吸入でも発症するそうです。虫刺されのあとはなかったのですが、肺tularemiaは症状としては矛盾しません。ただし、冬に発症するところが否定的とのことです。
hantavirus感染症は、急速な呼吸不全をきたしますが、同時に血小板減少とか心筋症もひきおこしますので、少し合わないですね。

かば:はぁ。

かわうそ:海外旅行もあるので、飛行機に乗っているのならということで、もしかしたらMERSかもと考えたいところですが、これも合わないようです。
東南アジアなら、Yersinia pestisとかBurkholderia pseudomalleiなど、つらつらと鑑別していますが、いずれも合いません。

かば:全く知らないのでついていけません。

かわうそ:North Americaの項にくると、ちょっと馴染みのある名前が出てきます。
学生の時、USMLEの勉強会に参加していた時にはよくでてきましたね。CoccidioidesとかCryptococcusとか。この辺りでは真菌感染を考えておけということのようです。
さらに、Lawrence River basinに行ったのなら、Blastomyces dermatitidisとHistoplasma capsulatumを鑑別にあげるべきだ、とこの感染症のDrはおっしゃっています。

きりん:難しいですね…。

かわうそ:ここまで読んでちょっと思ったんですけど、私たちもこういうよくわからない重症肺炎とかみて、絨毯爆撃のように抗生剤・抗真菌剤を使って、治療できたりできなかったりしているじゃないですか。
ひょっとしたら、まだ報告されていない風土病みたいなものが含まれているのかもしれなくないですか?このあたりだと、けっこう秘境的なところにお住まいの方もいらっしゃいますし。もし、そういう疾患の存在を知っていれば、戦う方法もわかるのではないか、と思うわけです。

話を戻します。blastomycosisの場合、10%くらいでARDSになると書いてありますし、たいていは免疫不全ではありません。この症例の経過に一致しますね。そして、死亡率は6-8割です…。大変ですね。
Histoplasmaの方はちょっと合わないようです。リンパ節腫脹がめだつ臨床像のようです。

ただ、これなら喀痰検査でわかるはずなんですが、これまで気管支鏡検査も含めて何度か繰り返されているのに見つかっていないのはどういったわけなんでしょうか?
とにかく、severe blastomycosisが鑑別診断に一番にあがりました。

かば:臨床診断はウイルス肺炎に細菌性肺炎を合併した、ということになっていますが、鑑別診断を考えてみたら、blastomycosisになった、というわけですね。

その3へつづく