2015年10月29日

たこつぼ心筋症まとめ

Clinical Features and Outcomes of Takotsubo (Stress) Cardiomyopathy.
N Engl J Med. 2015 Sep 3;373(10):929-38.
Templin C1, Ghadri JR, Diekmann J, Napp LC, Bataiosu DR, Jaguszewski M, Cammann VL, Sarcon A, Geyer V, Neumann CA, Seifert B, Hellermann J, Schwyzer M, Eisenhardt K, Jenewein J, Franke J, Katus HA, Burgdorf C, Schunkert H, Moeller C, Thiele H, Bauersachs J, Tschöpe C, Schultheiss HP, Laney CA, Rajan L, Michels G, Pfister R, Ukena C, Böhm M, Erbel R, Cuneo A, Kuck KH, Jacobshagen C, Hasenfuss G, Karakas M, Koenig W, Rottbauer W, Said SM, Braun-Dullaeus RC, Cuculi F, Banning A, Fischer TA, Vasankari T, Airaksinen KE, Fijalkowski M, Rynkiewicz A, Pawlak M, Opolski G, Dworakowski R, MacCarthy P, Kaiser C, Osswald S, Galiuto L, Crea F, Dichtl W, Franz WM, Empen K, Felix SB, Delmas C, Lairez O, Erne P, Bax JJ, Ford I, Ruschitzka F, Prasad A, Lüscher TF.

2015年9月15日

きりん:NEJMのタコツボ心筋症の報告です。

かわうそ:これは題名見て興味ひかれてた論文です。でも、循環器科の素養に乏しいので敬遠してました。助かります。

きりん:タコツボ心筋症は、1990年から知られた疾患なのですが、その自然経過、管理、そしてアウトカムなどはまだよくわかっていないらしいです。というわけで、ヨーロッパとアメリカの26もの施設の協力を得て、たこつぼ心筋症の研究をしようじゃないか、というのの報告です。インターナショナルたこつぼレジストリーというかっこいい名前の(?)コホートがあるんです。

かわうそ:名前がいいですね。タコツボってのがやっぱりいい味出してますよね。

きりん:1750人の患者を集めていますね。それと、急性冠動脈疾患(ACS)の患者で、年齢・性別を合わせたコホートと比較しています。
たこつぼ心筋症の診断の仕方が書いてあります。まず、1つの冠動脈の灌流領域では説明できないような左室の壁運動の異常があります。もちろん冠動脈の閉塞だったりプラークの破綻だったりが、アンギオで証明されません。新たな心電図の異常やトロポニン上昇は、ACSと同じようにあります。褐色細胞腫や心筋炎がないのが前提です。
ちょっとややこしいのが、これらの基準の例外として、冠動脈疾患が併存してもよい、というのがあるみたいです。その場合、1つの冠動脈の灌流領域で説明のつく壁運動異常はあるんでしょうが、それ以外の壁運動異常は、たこつぼ心筋症の存在を考えないと説明できない、ということなのだと理解しています。実際、あとでも出てきますが、たこつぼ心筋症の1割くらいでは冠動脈の異常があったとされているみたいなんです。

かわうそ:たまたま合併したということなんでしょうかね。

きりん:Figure 1がフローチャートです。1998年から2014年の間に、たこつぼ心筋症と診断された1750人が、30日後と、あとロングタームのアウトカムということで10年後まで(!)カプランマイヤーの解析に回されています。Matched cohortは、先ほどいったようにACSの455人と、それに合う455人が選ばれています。あと、この1750人もいろいろ除外されていますね。30日から先のフォローアップの情報がなかったり、処方の記録がはっきりしないとか、退院後の情報がないとか。
これは心筋梗塞なんかの研究でもよく使われているみたいですが、アウトカムは「major adverse cardiac and cerebrovascular events」ということで、たこつぼ心筋症の再発、心筋梗塞の発症、脳梗塞、一過性虚血発作、全死亡などを含んだイベントです。
この論文の言いたいことは、おそらくほとんどこのTable 1に凝縮されているんだと思います。ACSのmatched cohortと比較すると、たこつぼ心筋症は、胸痛の訴えは少なくて(73.5%対89.6%)、呼吸困難の訴えが多かった(47.4%対35.3%)ということになっています。この人達がすごく言いたかったことは、左室の駆出率が低く(40.7%対51.5%)、左室のend diastolic pressureが高目になっている(22.1%対20.1%)ということだと思います。本文にも、EFが落ちている人がたこつぼ心筋症の8割以上で見られていて、その平均値が40%だということが書いてあります。一方、ACSだと5割位の人でしかEFが落ちていないということになります。
合併症については、たこつぼ心筋症の人でも、2割位で冠動脈疾患がありました。ACSでは当然100%です。続いて、Neurologic or psychiatric disorderですが、やっぱりこういう疾患を持っている人は、たこつぼ心筋症の方が多いですね。あと、いずれも急性期の疾患よりも、過去または慢性期の疾患を持っている方が、たこつぼ心筋症に罹患しやすいみたいです。

かわうそ:この項目だけ、たこつぼ心筋症のTotal cohortとMatched cohortでえらい差がありますね…。どうなってるんでしょう?
あと、NeurologicとPsychiatricを一緒の項目で論じたりすることもあるんですね。ちょっと違和感ありますけど。

かば:Neurologicは脳血管障害との関係で、Psychiatricの方はストレスとの関係ですかね。

きりん:心臓と脳の神経系の関係があるようなことがどこかに書いてありました。
タコツボ心筋症ではカテコラミンの過剰が原因のようなので、頭の病気との関係がいわれています。頭の手術とかクモ膜下出血後ですごくストレスがかかるときの発症が有名ですよね。

かば:そういえば、これは国試ででますよね。

きりん:Psychiatricに隠れていますが、Neurologicもけっこう重要な因子だということが今回の研究ではっきりした、ということでしょうか。やっぱり原因不明っていうのもある程度ありますが。あと、そうはいうものの精神的なトリガーより身体的なトリガーの方がきっかけとしては多いんです(27.7%対36.0%)。
アウトカムについては、ショック状態や死亡については両群で差がないみたいです。
とにかく、患者背景がこのように違うこと、EFがたこつぼ心筋症で重症の人が多いということがわかった、ということが、この研究で言いたかったことのほとんどだと思います。

かわうそ:なるほどねぇ。

きりん:Fig 2は分類の図です。よく見るApical Typeの他、Midveentricular TypeとかBasal Typeとか、Focal Typeとかあります。全然知りませんでした。Focal typeとか、心室瘤とどう違うんでしょうか。エコーで見分けられるのか不安ですが、8割はApical typeなので安心です。
Fig 3はLong term outcomeのカプランマイヤー曲線です。さっきも触れたmajor adverse cardiac and cerebrovascular eventsについてですが、なんと10年経つと5割位でイベントが起きているようです。死亡でみても2割くらいで起きています。たこつぼ心筋症のアウトカムは軽視されがちですけど、ACSと同じくらい慎重に考えるべきなんだと筆者は訴えています。たこつぼだからってなめないでよ、ってことでしょう。
あと、1年後の生存でみると、ACEIとかARBを使うと改善されています。βブロッカーでは、そうではなかったようです。

かば:たこつぼ心筋症は、戻れば心不全にならないからβブロッカーはいらないってことなのかもしれないですね。

きりん:βブロッカーで再発は抑制されるのですが、予後は証明できなかったようです。

かば:10年なら差が出ても、1年では差はでないかもしれないですね。やっぱりたこつぼ心筋症は、最初にすごく心機能が落ちて、そこで死亡なんかもあるかもしれませんが、そこを乗り切ればあとは割りと予後がいい気がします。
あと、普通のACSのカプランマイヤーを横に並べて欲しいですけどね。それと比較しないと、たこつぼ心筋症の怖さがわかりにくいです。
あと、これだけの大規模研究の結果を、独り占めした感がちょっとずるいですよね。横断と縦断と比較で出せません?サブグループ解析もありますし。NEJMだから仕方ないかもしれないですけど。

かわうそ:ずらずらっと人の名前がならんでますけど、日本人いないですね。

きりん:たこつぼレジストリーっていう名前なんですけど、ヨーロッパです。オーストリア、フィンランド、フランス、ドイツ、イタリア、ポーランド、スイス、イギリスそしてアメリカです。

かば:けっこうたこつぼ心筋症って経験しますよね。喘息発作に合併したり、術後に発症したりとか。

かわうそ:診断は心カテが必要ってことですよね。エコーでたこつぼ心筋症と診断できても。

かば:エコーだけでは診断できないと高らかに宣言されています。あと、冠動脈疾患の合併もありますからね。

きりん:というわけでタコツボの疫学でした。

かば・かわうそ:ありがとうございました。