2015年8月17日

MGHケースカンファ(22-2015) その1

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITAL.
Case 22-2015. A 20-Year-Old Man with Sore Throat, Fever, Myalgias, and a Pericardial Effusion.
N Engl J Med. 2015 Jul 16;373(3):263-71.
Hunt DP, Scheske JA, Dudzinski DM, Arvikar SL.

2015年8月12日

その1

かわうそ:最近また自分の中でブームが復活してきたMGHのケースカンファレンスです。夏休みで1週間暇でしたので、調子に乗って読んできました。
生来健康な20歳の男性が、喉の痛み、発熱、倦怠感、全身の筋肉痛、心嚢水貯留で入院したという話です。最初は喉頭炎を疑われて抗生剤を出されています。えらいもので、ちゃんとペニシリンが出されていますね。
しかしさっぱりよくならず、その後も何度も受診されています。やっかいなことに、喉からβ溶血性連鎖球菌なんかが検出されたりもしているので、やっぱり感染症なのかな、とか言って、レボフロキサシンに変更して加療とかもされています。
でもやっぱり調子よくならない。今度は息切れもあるし、胸も痛いし、ということで受診されました。痛みはけっこう強くて(6/10)、呼吸で痛みが増強して、という性状です。WBCが23000、CRPが30、赤沈が96と亢進していました。ちなみに、赤沈が出てきましたので、ここで前回の赤沈0事件を思い出しました。

きりん:GIMカンファレンスのやつですね。

かわうそ:あれは何だったんでしょうかね?ちょっと考えたんですけど、あれは時間経過の問題なのかなって思ったんです。赤沈ってのはCRPよりもさらに臨床症状から遅れて亢進したりするはずなので、今回の症例のように赤沈がしっかりと亢進しているものでは比較的亜急性~慢性の経過をたどっていて、前回のように赤沈がしょぼければ、急性の経過であることを意味しているのかな、と思いました。

きりん:うーん。でも、0ですからねぇ。

かわうそ:そうか。さらになんらかの機序が重なってるんですかね。
さて、ここでようやく入院を許してもらえました。家の近くの病院ですけど。発症からは、3週間は経過していますね。CTとかは異常なし。この時点でもまだ感染症を疑ってるんですね。AZMとVCM、CTRXを使っています。痛みに対しては、モルヒネを使ったということです。

かば:CTは首みたいですね。あと経胸壁エコー。

かわうそ:あ、そうですね。すいません。でも、次のページですぐに他のところもCTとっています。こういう治療で痛みはよくなったけど、発熱や息切れは変わらない。で胸のCTを撮ったところ、右肺門縦隔リンパ節は腫脹していて、両側胸水があって、おそらくpassiveな無気肺があって、という所見はあるみたいですが、肺塞栓などはっきりとした所見はなかった、ということです。
で、免疫異常や免疫不全についてもこのへんで抗体を調べていて否定的ということです。
さらにお腹も痛くなってきたということで、2日後にCTを撮影されています。入院してからなら5日目です。お腹のCTでは異常なしなんですけど、胸水が増えているということと、心嚢水貯留が出てきているということが偶発的に発見されたということなんです。
でもねぇ、たぶんというかなんというか、このヒト結構前から胸が痛いとか呼吸が苦しいとか言ってますよね。ということは、経過からするとですよ、MGHの先生には失礼な話だということは重々承知してますが、この時点で初めて心嚢水が出てくるってのは、理屈にはあわないですよ。個人的に思ってるんですが、見逃しなんじゃないですか?(・∀・)

きりん:え?

かば:またまた。

かわうそ:私がそう考えてしまう理由というのも、読み進めていくとわかってもらえると思います。
心エコーしていて、胸水貯留と心嚢水の貯留があって、でも疣贅はなく、心機能も保たれています。次に肩の痛みのこととかも触れています。で、ここで突然、Rashが顔とか腕とかにでてきた、ということが書いてあります。写真も載っています。発熱の時だけ出てきて、1時間位で消えてしまうということです。

かば:このワード聞いたことありますね。

かわうそ:特徴的みたいですよね。
リウマチ熱関連の検査についてもここで出てきます。最初のどからストレプトコッカスが検出されていますので。ASOがぱっとしないとか。
とにかく、入院しているのにどんどん悪くなっていると。どんな治療しているのかいまいちわかりにくいんですけど。特に、どんどん心嚢水が増えてきている、呼吸性のTRが目立つ、と記載してあって、こっちまでドキドキしてきますよね。このヒトたち、なんかのんびりしてません?早く何とかしてやってって感じです。

かば:不明熱の検索をやってないんでしょうか?感染症ばっかり気にしているみたい。

かわうそ:すみません。言っていませんでしたが、いちおう抗体とかいろいろ調べているようです。

かば:このあたり、ドラマ「Dr. ハウス」を彷彿させますね。患者さんが死にかけるパターン。

かわうそ:安心して下さい…。生きてますよ!( ̄ー+ ̄)

かば・かわうそ:…。

かわうそ:…(このスルースキルの高さにシビれるわ~。ありがとうございます)。
さて、ここでようやくCCUに入室しますので、話が展開すると期待していいです。
生活歴が載っています。大学生で、危険な性行為や、外国旅行、動物との接触はないようです。喫煙はないが、マリファナを吸うことはある、飲酒は「drank five or six beers once per week」とありますので、週に1回5-6杯のビールですかね?量がいまいちわかりませんが、アメリカ人ならたいしたことなさそうです。みなさんの方が多いくらいですよね?兄弟に違法ドラッグ使用による感染症で亡くなった人がいるとこも面白いですね。アメリカっぽくてワクワクしますが、関係はなさそうです。
身体所見についても、これまでのまとめっぽいことが書かれています。
次のページにラボデータの表があります。WBCは当然高いし、慢性の経過で貧血になってて、反応性に血小板が多い。20歳でAlbが2.6っていうのは、けっこうおおごとだなと思います。心臓のことなので、CK、トロポニンT、BNPなんかも載っています。で、CRPは高い、と。
で、ここから先は見てしまうと答えがわかってしまうので、できれば見ないふりをしていただきたいんですが。

きりん:見てしまいました…。

かわうそ:見てしまいましたか…。まあ、しょうがないですよね。書いてありますもんね。(´・ω・`)
レントゲン写真では、ご覧のとおり心嚢水貯留と胸水貯留ですね。心電図はあまり詳しくないので説明しにくいですが、心嚢水貯留に特徴的なもののようです。心エコーは先ほど触れたのでもうご存知ですよね。右心房が圧迫されているようです。
ここから鑑別診断に入ります。

その2へつづく